「わかってもらえない」と感じる時:議論や対話に潜む思考の癖
意見がぶつかる時、壁はどこにあるのか
私たちは日々、様々な人とコミュニケーションを取ります。仕事の会議で意見を交わしたり、友人や家族と話し合ったり。しかし、時には「どうしてわかってくれないのだろう」「話が噛み合わない」と感じたり、自分の意見をうまく伝えられず、もどかしい思いをすることもあるかもしれません。
このような時、つい相手の理解力や、話し方、場の雰囲気に原因を求めてしまうことがあります。もちろん、それらも影響しますが、実はその背後には、私たち自身の「思考の癖」が隠れていることがあります。自分の考え方のパターンやバイアスが無意識のうちに、相手との間に見えない壁を作り出している可能性も考えられます。
あなたの思考の癖が、対話をどう難しくするか
思考の癖やバイアスは、私たちが物事を認識し、判断を下す際に働く、ある種の「近道」のようなものです。これ自体が悪いわけではありませんが、無意識のうちに特定の方向に考え方を偏らせてしまうことがあります。これが対話の場で現れると、様々な影響を及ぼします。
例えば、
- 「自分の考えが一番正しい」と思い込んでいる場合: 相手の意見を聞いているつもりでも、内心では自分の考えを補強する情報ばかりを探したり、相手の意見の欠点ばかりに目がいったりすることがあります(確証バイアス)。これでは、建設的な議論は難しくなります。
- 相手を特定の型にハメて見る場合: 「この人はいつも批判的だ」「若いから経験がない」など、相手を過去の経験やレッテルで評価してしまうことがあります(ステレオタイプやハロー効果/ホーン効果など)。相手の発言そのものではなく、フィルターを通して聞いてしまうため、真意を理解しにくくなります。
- 周りの意見に流されやすい場合: 場の空気に反論しづらいと感じたり、多数派の意見に安易に同意してしまったりすること(同調バイアス)も、自分の本当の考えを伝える妨げとなります。
- 最初に聞いた情報に強く影響される場合: 議論の冒頭で出た意見や、過去に聞いた印象的な情報に引きずられてしまい、その後の新しい情報や異なる視点を柔軟に受け入れられないことがあります(アンカリング効果など)。
これらの思考の癖は、無意識に私たちの耳を塞いだり、口を閉ざしたり、あるいは相手の言葉を歪めて受け取ったりすることに繋がります。結果として、「言いたいことが言えない」「言ってもわかってもらえない」「なぜか対立してしまう」といったコミュニケーションの悩みが生まれるのです。
気づくことが、より良い対話への第一歩
では、こうした思考の癖にどうすれば気づけるのでしょうか。それは、まず「もしかしたら、自分の考え方にも何か癖があるのかもしれない」と、自身の内面に目を向けてみることです。
例えば、
- 会議で意見が対立した時、「なぜ相手はそう考えるのだろう?」と、相手の視点に立とうとしてみる。
- 自分が強く同意できない意見を聞いた時、「なぜ自分はそれに抵抗を感じるのだろう?」と、自分の感情や考えの根拠を少し立ち止まって考えてみる。
- 自分の意見を言うのが怖いと感じる時、「何を恐れているのだろう?」「どのような結果を避けたがっているのだろう?」と自問してみる。
このように、自身の思考プロセスや感情に意識的に注意を向けることが、「気づき」の始まりです。最初は難しいかもしれませんが、日々のコミュニケーションの中で少しずつ意識するだけで、自分の思考の偏りやパターンが見えてくることがあります。
気づきがもたらす変化
自分の思考の癖に気づくことは、決してネガティブな自己否定ではありません。むしろ、それはより良い対話、より豊かな人間関係を築くための、パワフルな一歩となり得ます。
自分の偏りに気づけば、相手の意見を以前よりも冷静に聞けるようになるかもしれません。無意識の決めつけを手放し、相手を一人の個人として、その発言内容そのものに耳を傾けやすくなるでしょう。また、自分がどのような思考のフィルターを通して物事を見ているのかが分かれば、自分の意見を伝える際にも、より客観的に、そして相手に伝わりやすいように工夫できるようになります。
思考の癖に気づき、それを少しずつ手放していくことは、凝り固まった考え方を解きほぐし、より柔軟で開かれた姿勢で世界と向き合うことに繋がります。コミュニケーションの場面だけでなく、日々の意思決定や自己理解においても、きっと新たな発見があるはずです。まずは、あなたの内なる思考の対話に、少し耳を澄ませてみませんか。