「わかっているはずなのに」うまくいかない…思考の癖に気づくための第一歩
日々の「なぜかうまくいかない」の正体
私たちは皆、それぞれの考え方や価値観を持っています。それは個性であり、物事を判断する上で重要な羅針盤となります。一方で、その考え方や判断の仕方に、無意識のうちに偏りや癖が生じることがあります。心理学では、これを「認知バイアス」や「思考バイアス」などと呼びます。
日々の人間関係や仕事で、「どうしていつもこうなるのだろう」「わかっているはずなのに、同じ失敗を繰り返してしまう」と感じることはありませんか。相手に自分の意図がうまく伝わらなかったり、最善だと思って下した決定が裏目に出たり。もしそうした経験があるならば、それはあなたの「思考の癖」や「バイアス」が影響しているのかもしれません。
思考の癖・バイアスとは何か?そしてなぜ気づきにくいのか?
思考の癖やバイアスとは、簡単に言えば、物事を認識したり判断したりする際に、意識しないうちに働いてしまう、偏った見方や考え方の傾向です。
例えば、「自分はプレゼンが苦手だ」と思い込んでいると、たとえ十分に準備しても、そのプレゼンではネガティブな結果ばかりに目が行きがちになります。あるいは、特定の意見を持っていると、その意見を裏付ける情報ばかりを無意識に集めてしまう(確証バイアス)といったことが起こり得ます。
では、なぜ自分の思考の癖やバイアスに気づくことは難しいのでしょうか。それは、それが「無意識」に働いているからです。自分の当たり前、自分の常識として深く根付いているため、それが偏りであるとはなかなか認識できません。例えるなら、自分自身の「見えないメガネ」のようなものです。常にそれをかけて世界を見ているため、それが世界をどう歪めているかに気づきにくいのです。
思考の癖が影響する日常の場面
この見えないメガネ、つまり思考の癖やバイアスは、私たちの日常の様々な側面に影響を与えています。
人間関係
相手に対して過去の経験からくる「決めつけ」をしてしまうことはありませんか。一度苦手だと感じた人に対して、その後も否定的な側面ばかりに注目してしまい、相手の良い点や変化を見落としてしまうといったケースです。これは、相手との関係性を築く上で大きな障壁となり得ます。
コミュニケーション
相手の言葉の真意を、自分の都合の良いように、あるいは悪いように解釈してしまうことも思考バイアスの影響です。例えば、上司からのアドバイスを「自分への個人的な批判だ」と受け取ってしまい、必要以上に落ち込んだり反発したりするなど、建設的なやり取りを妨げてしまうことがあります。
意思決定
何かを選択する場面で、自分の馴染みのある情報や、既に信じていることに反する情報を軽視してしまうことがあります。これにより、本来考慮すべき重要な視点を見落とし、最適ではない選択をしてしまう可能性があります。過去の成功体験に固執し、変化を恐れて新しい機会を逃してしまうこともあるかもしれません。
思考の癖に「気づく」ことの重要性
自分の思考の癖やバイアスに気づくことは、自己理解を深める上で非常に重要です。なぜ自分が特定の状況で強く反応するのか、なぜ同じような問題にぶつかるのか、その根本原因が見えてくることがあります。
気づきは、自己成長の第一歩です。自分の思考パターンを客観視できるようになると、それに囚われることなく、より自由で柔軟な考え方ができるようになります。
- 人間関係の改善: 相手への無意識の決めつけに気づけば、より開かれた心で向き合えるようになり、関係性が改善する可能性があります。
- より良い意思決定: 一つの見方に固執せず、多様な情報を公平に検討できるようになれば、より合理的で後悔の少ない選択ができるようになります。
- 感情のコントロール: 自分の思考が感情にどう影響しているかに気づけば、ネガティブな感情に振り回されにくくなります。
気づきのヒント:自分の思考に目を向ける練習
自分の思考の癖に気づくことは簡単ではありませんが、日々の少しの意識で、気づきやすくなります。
- 「なぜ、そう考えるのだろう?」と自問する: ある出来事に対して自分が強く反応したり、特定の結論に飛びついたりした場合、一度立ち止まり、「なぜ自分はそう考えたのだろう?」「他に考えられる可能性はないか?」と問いかけてみてください。
- 他者の意見に耳を傾ける: 自分と異なる意見を聞いたときに、すぐに否定するのではなく、「なぜこの人はそう考えるのだろう」と相手の視点を理解しようと努めてみましょう。自分が見えていない視点に気づかされることがあります。
- 自分の感情や行動を観察する: 特定の状況でいつもイライラする、避けたくなる、といった感情や行動のパターンがあれば、「どんな状況で」「そのとき自分は何を考えていたか」を観察してみてください。思考と感情・行動の繋がりが見えてくることがあります。
これらの問いかけや観察は、自分の内側にある「見えないメガネ」の存在に気づくためのヒントになります。
気づきは、より自由に考えるための一歩
自分の思考の癖やバイアスに気づくことは、決して自分を否定することではありません。「自分は偏った考え方をする人間なんだ」と落ち込む必要はありません。そうではなく、「私はこのような見方の傾向があるのだな」と冷静に認識することが大切です。
自分の思考パターンを知ることは、それをコントロールするための第一歩です。癖そのものをなくすことは難しくても、その癖が働く場面を自覚し、意識的に別の視点を取り入れる練習をすることができます。
思考の癖やバイアスに気づく旅は、自己否定の道ではなく、より自由に、より柔軟に、そしてより建設的に物事を考え、人生を歩んでいくための希望に満ちた一歩なのです。自分の内面に少し目を向け、新しい発見を楽しんでみませんか。